Morry's

That's It !

釣りに置き換えてみるとどうだろうか。

自身の半生を返りみればどうだろうか。

あ~、道半ばの未熟さを今日も思い知る。

神秘的な夜明け、壮大な落日。

釣場の景色に心を傾け、知己を得て、夢に見続け憧れの極点に立ち、

心静かに水面に向き合う。

そんな釣人に早くなりたいものだとつくづく思う。

 

2016年2月1日 ニューバースデイ

森下久志

2016年2月1日。

また一人のサクラマスアングラーが誕生した日。

新しい釣り人生が始まった特別な日。

今年から僕らの九頭龍川解禁釣行に昨年からサクラマス釣りを始めたアングラーが参加することになった。

 

アングラーの名前は山口哲也。

 

学生の頃はバス釣りに熱中し新宿にあった有名な喫茶店「ルイ」に通い有名なアングラーに手ほどきを受けていたと言う。

その後の人生流転、永いこと釣りから遠ざかっていた。

何のきっかけかは知らないがそんな彼が一念発起、一昨年から釣りを再開した。

昔、良く雑誌で見ていた則さんを思い出し、それならば!とタックルはザウルスを選んだそうだ。

だったらバスではなくなぜマスなのかも聞いていないがこの男は無謀にもいきなりベイトキャスターになった訳だ。

彼との出会いは昨年の晩秋。

もうその時から今年の九頭龍川の解禁には行く気満々だった。

 

何てったって解禁日。

みんな、まずは自分が何とか釣りたかったと思う。

半年以上も待ち焦がれた特別なこの日。

それなのに彼のために自分が釣りたい気持ちを抑えて彼を先頭で釣り下らせてくれた。

当の本人は多少の遠慮と謙虚さで要領を得ない。

その山口さんに「早くしないと粕谷が全部釣っちゃうぞ!」とけし掛けると申し訳なさそうにようやく釣りを始めた。僕は一段高い岸の上から余計な事は話さないで彼の釣りを見ながらその後を付いて行った。

空は次第に東の方から明るくなってきた。

タックルは一体どこで探してきたのか新品のTS80HC-T“NORRI’S”に2500Cの組み合わせ。ミノーはレックス・ミディアムディープ9cmアクアマリン。

形はすっかり出来上がっている。

 

距離を抑えて慎重にキャストしている。

 

そりゃ僕だって釣りたい。

でも自分を後回しにして新しい仲間に何とか釣ってもらおうと心意気は皆同じだった。

ザウルスの仲間はそんな意思が団結している。

今回もコーディネーター役の外岡さんは毎年、

解禁の日はまだサクラマスに出会っていない

アングラーに何とか釣らせようと配慮してくれる。情報収集を含め彼がいないとこの日は成立しなかったありがたい存在だ。

いつもそんな仲間の協力があって僕らのサクラマス釣りが成立している。

だからいつも僕らが釣ったサクラマスはみんなで釣ったサクラマスなのだ。

釣り始めてほんの2~3投目、ミノーの後ろで「ギラッ」と反転があった。

 

サクラマスは確実にいる。

 

じっくりと魚に見せるようにゆっくりミノーを引くように伝えた次のキャストで勝負は決まった。

 

フッキング後、水面で暴れるサクラマスのファイトにつられて下ろうとする山口さんに、動くな!耐えて暴れさせろ!

しばらくすると無駄だと悟り沖に走り出したサクラマス。

よし!今度はプレッシャーかけろ!浮かせろ!

その後は本人も良く思い出せないと言うくらい本当に余裕の無い初めてのサクラマスとのファイトだったが最後は何とかこのメモリアルフィッシュを粕谷がネットに収めて無事フィニッシュ。

みんなそれぞれに良い仕事をした最良の結果った

人生で初めて釣ったサクラマス。

九頭龍川で出会った一匹のサクラマス。

それは海原で幾多の困難を生き抜いてきた誇り高き生命との真剣勝負。

そして思い出深い仲間との釣り。

この日の経験の全てが彼の人生に深く刻まれたはずだ。

 

彼の頭の中にはサクラマスが住み付いた。

こいつは突然に現れて悠々と泳ぎ出す。

寝ても覚めても、処構わずお構いなし。

幸せの対価は彼の心をかき乱すに違いない。

残念ながらそれに耐えるしかない。

そしてどうにも我慢できなくなったらそりゃもう、また九頭龍に来るしかない。

則さんの気魂を感じに来ればいい。

それがサクラマス釣りなのだから。

釣りはその関わり方次第で人生をとても豊かにしてくれる。

新しい出会いをもたらしてくれる。

友人を増やしてくれる。

夢を見せてくれる。

胸がはずむような体験ができる。

一匹の魚とどう関わるか。

 

0年振りに釣りを再開し、幸か不幸かあっという間に人生初のサクラマスを手にした男、山口哲也。

これからも釣りを通して色んな幸せがと彼の周りにもたらされることだろう。

まだ見ぬ先の彼の釣り人生、幸多き事を願う。

ゴルフの発祥の地、スコットランドにはゴルフにまつわるこんな歌詞の民謡があるそうだ。

 

飛距離が自慢の幼稚園。

スコアにこだわる小学生。

景色が見えて中学生。

マナーに厳しい高校生。

歴史が分かって大学生。

友、群れ集う卒業式。

人生で記念すべき大物や初めての魚に出会うこの感動、

感激は人の言葉では言い表すことが、語り尽くすできないないと思う。

それは例え英語でも、フランス語でも、スペイン語であっても表現できない。

でも釣り人の心では分かり合える。

世界中のアングラーとあの瞬間を共有できる。

そこには言葉の問題は無く心で分かり合える。

最も簡単に言葉の壁すら乗り越える。

釣りとは人間の根源に訴えかける衝動と感動を得られる貴重な体験なのだ。

この日は彼の新しい誕生日になったと信じたい。

僕はこの日その瞬間に立ち会えたことを幸せに思う。

 

この日、山口さんは用事があって早めに九頭龍を離れなければならなかった。

 

帰り際に則さんへの想いを込めて川に献花をしたいと言うのでみんなで五松橋の河原に降り彼が持参した花束を九頭龍川へ流した。

彼がにしたその花は図らずも則さんが愛したカサブランカだったのはやはり巡りあわせだったのだろうか。

 

この男、どうやら素地はありそうだ。