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「広大なフィールドでの感動」

連休前の最後の仕事を終え、車に荷物を積み込む。フィリプソンBC60L BC60M BC60MH アンバサダー5500C レコード アムコ3060U キャンプ道具。汗だくになりながらも、表情が緩んでしまう。

 去年から始めた八郎潟遠征。幼少期に夢見た八郎潟へ、同世代のトップウォータープラッガー達と行く夢の遠征だ。西は兵庫、東は福島までいる同世代の釣り仲間は、それぞれが思いのままのスタイルで普段から釣りを楽しんでいる。ある者はフェンウィンクのロングロッドでザラスプークをゆったりと操り、ある者はコンポジットのシャープさを生かしてハンドメイドプラグを低弾道でキャストし、ある者は道楽のタックルで豪快にダーターを引く。ジョンのハイバックシートに2人が腰掛け、同じブランドのタックルを使って釣りをしている様は、昔かじりついたカタログを見ているようで惚れ惚れとしてしまう格好良さがある。しかし、スタイルが違うプラッガーと並んで釣りをすることはとても刺激になり、また自分が貫くスタイルの格好良さを再確認することができる。だから、それぞれがそれぞれのスタイルを目の当たりにしても、自分の好きなスタイルを曲げようとしないのだろう。無論、それはフィリプソンにアンバサダーを着けてバルサ50を投げる私も同じだ。

 荷物を積み込んだ車で東北自動車道を北上し、休憩しながらゆっくりと秋田自動車道を走ること10時間。秋田県八郎潟に到着した。

 

今回の遠征の目標はペンシルでグッドサイズのバスを釣ること。普段の釣りではペンシルベイトの出番が少ない為、遠征の時くらい気持ちよくスケーティングさせてバスを釣りたいと常々考えていた。6時過ぎに西部承水路からジョンを出し、実績のあるポイントをビッグラッシュ・スケーターOrで探る。連日の猛暑でアオコがひどく出ているようだ。アオコが手についてひどくベトベトする。

北にジョンを進めながらホッツィトッツィOrやバルサ50オリジナルでも誘ってみるが不発。初日だからと焦る気持ちを抑え込んで、テントの設営と食材の買い出しに行き仮眠をとった。

遠征先での宿泊先として、私はキャンプという選択肢を選ぶ。民宿やホテルで済ませたほうが釣りに集中ができるのだが、自然の中に身を放り出して見上げる星空は本当に美しくて都会の窮屈さや面倒な人間関係を忘れさせてくれる。また、普段遠くで暮らす釣り仲間と語り合う空間は、無機質な白いホテルの明かりよりも温かい人間味のあるランタンの灯の方が仲間との距離を近づけさせてくれる気がして、私は好きだ。魚を釣るまでの時間・手間。それら全てが魚を釣ったときの感動に代わると思う。それもまた「一匹のバスとどう関わるか」ということにつながっていると私は思う。

 

翌日、想像以上にアオコがひどい為午後からは状況調査として周辺のフィールドや流入河川の上流部にジョンを浮かべることにした。しかし周辺フィールド、流入河川共に大減水。流入河川に至ってはアオコが混じっている。流れ込みも同様で反応を得られないまま、初日の釣りが終了した。

 テントサイトに戻ってビールを飲みながら仲間と情報交換し明日の作戦を考える。私とハンドメイド使いの仲間は朝マヅメを東部承水路で釣ることに決めた。東部承水路は風が吹くと厄介だが、岸から15メートル程離れたポイントに葦が点在するエリアがある。程よい風が吹けばアオコが沖から岸際に流れていき、その沖の葦が狙い目となると考えたからだ。

2日目の朝、答えはすぐに出た。

想定するバイトゾーンは沖の葦際。それより奥にビッグラッシュ・スケーターOrをキャストする。タックルはフィリプソンBC60Lにアンバサダー5500C 73年式 ラインは中空ナイロンバスザウルス50の16lb。柔らかく、無駄な水飛沫を立てないよう滑らかにスケーティングさせる。

ビッグラッシュにはスケーター、ウォーカー、ウッドと、大きく言えば3種類あり、それぞれの特性を理解し、使い分けを行うことにより理想的なゲームを組み立てることができる。私の場合は、早い動きに反応する日やバスが広範囲に散っている日はスケーターを使用し、バイトゾーンから逃げるような早い動きでバイトを誘う。ポーズはほんの一瞬。やる気のある魚はそれでも十分にルアーを捕える。無風のピンポイントをじっくり探る時はウォーカーを使用し、焦らして口を使わせる。一瞬ボディを沈めて高い浮力で浮き上がるドッグウォークはウォーカーにしかできないアクションであり、簡単に口を使わないバスには効果的だ。スレたハイプレッシャーのフィールドではウッドを使用する。スケーターやウォーカーのような個性はないが、非常にバランスが良く万能的なペンシルだ。ゆったりとした足の長いスケーティングからの速いドッグウォークはリアクションバイトを誘発する。速いドッグウォークでも体制が崩れない為、しっかりセットフックする。また、ロングポーズを多用する誘い方もよく効く。水に絡むウッドだからこそ超スローに誘っても存在感があり、スレたバスに口を使わせる。またオリジナルサイズのサイズ感も絶妙なのだろう。

 

大酒飲みのヨロヨロ歩きは想定したバイトゾーンである葦際をなめる。そして、そこから離れようと逆側に顔を向けて動いた瞬間、「ジュボッ!!!」という音とともに水中に消えた。 「よっし!」無事セットフックしてリールを巻くが手応えが物足りない。どうやらジョンに向かって泳いでいるようだ。まずい。ここで頭を振られたらバレる。瞬間そう考え、必至でリールを巻きラインにテンションをかける。運よくバスはジャンプせず、船際まで寄ってきた。「良いサイズだ!!!」急いでハンドランディングしにかかるが、最後の力を振り絞ったジャンプでフロントフックが外された。この時の緊張感はピークに達していて、それからのことはよく覚えていない。どうにかこうにかハンドランディングしてキャッチしたバスは、目標としていたグッドサイズと自信を持って言えるような魚体だった。興奮で震えた手で同船者とガッチリ握手を交わす。充実感で満たされた瞬間。

 

それから、風が少し強くなってきた為ヒップチャップでポイントを探っていく。同船者はポッパーやダーター、ダブルスウィッシャー等、こまめにルアーローテーションをしながらバスの反応をうかがっている。同船者の操るプラグは反応があるものの、どこか元気のないバイトばかりだ。フッキングに至らない。同船者が首をかしげていると、今度は私が操るヒップチャップに横っ飛びでバスがバイトしてきた。セットフックには至らなかったが、明らかに他のプラグとは反応が違う。それを見た同船者がルアーをペンシルに結び替えた。ルアーはZEALのチョッパー。彼が中学生の頃から使用しているお気に入りルアーだ。ルアーを替えて3投目。ゆったりとした動きから、機敏な動きに変化した瞬間、横からバスがルアーをひったくっていった。パワフルな引きとジャンプの後に姿を現したのは45センチのバスだった。手の震えた彼と再び握手を交わす。幼い頃にトップウォーターに出会い、毎日自転車を漕いで釣りへ行き、中古釣具店で買ったセラフをひたすら一緒に投げていた。そんな彼と、あこがれの地八郎潟でバスを手にし握手を交わせることを本当にうれしく思った。

 

最終日の夕マヅメ。去年仲間の一人が50UPを釣ったポイントに賭けることにした。他の仲間達もそのポイントで前日、良い釣りをしたらしい。

初日の朝マヅメで探ってはいるものの、アオコがひどく反応が得られなかったポイントだ。

初日から最終日にかけて、水質が回復していた為最終日にまたそこに行くと決めていた。

風はなく、水面は鏡のようだ。ルアーはバルサ50オリジナル。一瞬潜らせるダイブとポーズを繰り返す。一発大物狙いでダーダーを投げることも考えたが、大きな音を立ててダイブさせるダーターよりも静かにダイブさせて急浮上による丸い波紋を作るこのプラグの方がスレているバスや、ビクビクしているバスには効くと思ったからだ。しかし、小刻みにアクションを加えると小さいバスがアタックしてくるため、あくまで単調にダーターのようにスローに釣る。葦際に落とし、波紋が消えるまで待つ。ダイブとポーズを繰り返し、5回目のダイブでバスが横から覆いかぶさるようにルアーを水中に持ち込んだ。あまりのバイトの激しさに驚き、むこうアワセだ。船際まで3Mくらいのところでジャンプ。50センチはあろうかというバスがフックを外して水中に消えていった。

2日目に釣れた2匹のバスは、水質や風、プレッシャー等を考え、悩みに悩んで決めたエリアでの成果だ。偶然と言われればそれまでなのだが、「釣れた」ではなく「釣った」と思えるものだった。トップウォーターの魅力は色々あるとが、一般的によく言われているのは「バイトシーンが見える」ということだと思う。確かにバイトの瞬間はエキサイティングで堪らない。胸が高鳴る。しかし、プロセスを楽しむこの釣りだからこそ、釣りそのものの楽しさも大事なのだと思う。水面で釣れれば良しとするならば、小さな野池で足音を立てずにポイントに近づき、ルアーを足元に垂らしてちょうちん釣りをしても同じであり、よく釣れると思う。広大なフィールドにボートを浮かべ、頭を悩ませバスの居場所を探すというのも釣りの楽しさだと思うのです。八郎潟。水面だけ見てもこんなに広いのに、魚が住む水中も考えると、本当に広い。そんなフィールドで魚のいる場所を探し、一匹の魚と出会うということが奇跡のように思えた。まだまだ未熟な私は広いフィールドで魚の場所を探し、グッドサイズを手にするという経験は少ないが、もっと釣り場に通い勉強し腕を上げていきたいと思う。「一匹のバスとどう関わるか」という言葉を忘れずに。

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